生ひ立ち
NANIWANO
|
1 |
私の上に降る雪は
真綿のやうでありました
|
2 |
♪
|
3 |
♪
|
4 |
♪
|
5 |
♪
|
6 |
或る少年の声はか細く誰の耳にも届かなったが
活字は誰の目にも見えた
|
7 |
インクになった声に目を通した詩人が言った
「君の言葉には力があるね」
|
8 |
はじめて自分の言葉が他人に届いた少年は
唇を万年筆の先に重ねて
思いを青いインクに託した
|
9 |
少年が言葉を紡げば皆が微笑む
当然だと詩人が背中を叩く
微笑む人の心は知らない少年
今日も詩集が印刷所で刷られる
|
10 |
♪
|
11 |
♪
|
12 |
♪
|
13 |
私の上に降る雪は
霙のやうでありました
|
14 |
私の上に降る雪は
霰のやうに散りました
|
15 |
♪
|
16 |
♪
|
17 |
或る少年は部屋にこもり詩を書いた
書いて書いて書いて書いて書きつづけた
やがて腱鞘炎になった
|
18 |
動かない手に鞭打って少年は詩を書いた
詩人と編集が急かすので少年は口も耳も塞いでしまった
|
19 |
やがて言いたいことがわからなくなった少年は
首筋に万年筆の先をあてて
一思いに青い薬品を飲み干した
|
20 |
少年は涙を流して微笑む
どうしてだと詩人は悲しみにうなだれる
微笑む少年の心は知らない人々
今日も詩集が印刷所で刷られる
|
21 |
♪
|
22 |
♪
|
23 |
♪
|
24 |
私の上に降る雪は
雹であるかと思はれた
私の上に降る雪は
ひどい吹雪とみえました
|
25 |
瞳を閉じて浅い呼吸をする少年
夭折の詩人の詩の走馬灯
浪漫と白昼夢の世界へ行きたいと切に願った
|
26 |
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました……
|
27 |
♪
|
28 |
♪
|
29 |
少年の命は儚く尽きる
残念だと世間は目を伏せる
微笑む少年の遺影は見ない人々
一層輪転機が忙しく働く
|
30 |
一層輪転機が忙しく働く
|