赤い蝋燭
作新美南吉 作曲クーマー
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山から里の方へ
遊びにいった猿(さる)が
一本の赤い蝋燭(ろうそく)を
拾いました。
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3 |
赤い蝋燭は沢山(たくさん)
あるものではありません。
それで猿は赤い蝋燭を
花火だと思い込んでしまいました。
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4 |
猿は拾った赤い蝋燭を
大事に山へ持って帰りました。
山では大へんな騒(さわぎ)になりました。
何しろ花火などというものは、
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5 |
、鹿(しか)にしても猪(しし)にしても兎(うさぎ)にしても、
亀(かめ)にしても、鼬(いたち)にしても、
狸(たぬき)にしても、狐(きつね)にしても、
まだ一度も見たことがありません。
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6 |
その花火を猿が
拾って来たというのであります。
「ほう、すばらしい」
「これは、すてきなものだ」
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7 |
鹿や猪や兎や
亀や鼬や狸や
狐が押合いへしあいして
赤い蝋燭を覗(のぞ)きました。
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8 |
すると猿が、「危(あぶな)い危い。
そんなに近よってはいけない。
爆発するから」といいました。
みんなは驚いて後込(しりごみ)しました。
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そこで猿は花火というものが、
どんなに大きな音をして飛出(とびだ)すか、
そしてどんなに美しく空にひろがるか、
みんなに話して聞かせました。
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そんなに美しいものなら
見たいものだとみんなは思いました。
「それなら、今晩山の頂上(てっぺん)に行って
あそこで打上げて見よう」と猿がいいました。
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11 |
みんなは大へん喜びました。
夜の空に星をふりまくように
ぱあっとひろがる花火を眼(め)に浮べて
みんなはうっとりしました。
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12 |
さて夜になりました。
みんなは胸をおどらせて
山の頂上(てっぺん)にやって行きました。
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猿はもう赤い蝋燭を
木の枝にくくりつけて
みんなの来るのを待っていました。
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いよいよこれから
花火を打上げることになりました。
しかし困ったことが出来ました。
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と申(もう)しますのは、誰も花火に
火をつけようとしなかったからです。
みんな花火を見ることは好きでしたが
火をつけにいくことは、好きでなかったのであります。
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これでは花火はあがりません。
そこでくじをひいて、
火をつけに行くものを決めることになりました。
第一にあたったものは亀でありました。
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亀は元気を出して
花火の方へやって行きました。
だがうまく火をつけることが
出来たでしょうか。
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いえ、いえ。
亀は花火のそばまで来ると
首が自然に引込(ひっこ)んでしまって
出て来なかったのでありました。
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そこでくじがまたひかれて、
こんどは鼬が行くことになりました。
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鼬は亀よりは幾分ましでした。
というのは首を引込めて
しまわなかったからであります。
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しかし鼬はひどい近眼(きんがん)でありました。
だから蝋燭のまわりを
きょろきょろとうろついているばかりでありました。
遂々(とうとう)猪が飛出しました。
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猪は全(まった)く勇(いさま)しい獣(けだもの)でした。
猪はほんとうにやっていって
火をつけてしまいました。
みんなはびっくりして草むらに飛込み
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耳を固くふさぎました。
耳ばかりでなく眼もふさいでしまいました。
しかし蝋燭はぽんともいわずに
静かに燃えているばかりでした。
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