地方競馬場にて
Archilochus Tokiensis
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跫音なんて難しい言葉は
鮎川の詩で初めて覚えたよ
ぼくには誰の遺言も託されていない
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——そう気づいてしまってから
どの馬も嘘みたいにぴかぴかに
仕上がっている中央競馬には
足が向かなくなってしまったのだ
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地方競馬のパドックに集まる
人々は誰もかれもひとりきり
それでもレース前は一斉に動き出す
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——おおその跫音の群れよ!
やがて馬たちの蹄がダートを
叩きつける音もそれに加わり
砂煙とともに駆けぬけるのだ
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鞍上の人よ
どうしてあなたは回ってくるのか
走ることは生きること
それがあなたの乗っている生き物だから
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ゴール板の前で二頭が僅差
小さなモニターに集まる視線
いま・ここでだけ一番に大きいハナ差だ
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——「アーモウコリャ三番ダヨ!」
こうして三百年の伝統に
従って負け馬に賭けたぼくは
跫音のなかからひとり抜けだす
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鞍上の人よ
ぼくはあなたをふりかえらなかった
生きることは走ること
それがぼくらすべての始まりなのだから
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さよなら
本命も穴も信ずるに足りない
ただ信じられるのは
真実生きている彼らの跫音だけだ
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