359296 / 赤トンボ
故郷を捨てた春枯れ葉 散る 秋の日の昼下がり
街の小さな図書館
ふと見た向こうのテーブルに
セーラー服の人
なぜか、見つめあった、短い時間
変な人と 思われたくない
なにもなかったように
本に視線を戻した
午後の日の中に 映える姿
見ていたかった かわいいひと
本の文字が 目に入らない
ああ、何があったのか
冬の夕暮れ 迫る中 街の小さな本屋
本棚の前に佇んでいた
その時だった その時だった ごめんなさいと
初めて聞いた あの人の声
愛しのマリアは横にいた 見つめ合うには近過ぎて
上の棚から本を取り
あの人は去っていった
何がおきたのか 考える間も与えず
夕暮れの 町の中の電気店
みせの奥に 聞こえてきた
なぜに あの人の声が
家の灯火の 付け替えをしてと
聞こえた会話に 心が騒ぐ
おうちは近く
あの人の名は みいさん
あの人は また目の前に踊る
僕は店では アルバイト
あの人の 家に使わされる 事もなく
店から去りゆく あの人の
後ろ姿を見送った
粉雪舞う町 スキー姿のあの人
前の週 すきーにいった僕
もしや あの人は なにかを伝えんと
メッセージ を出していた
すべては 神の悪戯 か
なれど僕には 素敵な踊り 返せなかった
季節は 過ぎていった
ふたりを結ぶ 何も 創れなかった
丘の上の男子校の僕たち
女子高生と なにを語るべき
でもでもなにかを 交歓したかった
あのひとは こんな僕に あの人は こんな僕に何をみていたのか
春が来て 旅立つ日は来た
山の向こうへ
待ち受ける 灰色の 知らない町
ふるさとの 二人の物語 生まれずに消えた
十九の春に、故郷を捨てた
ふるさとをすてた
かわいい あの人に
さようならを告げられずに
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